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福井地方裁判所武生支部 昭和32年(ワ)85号 判決 1960年1月14日

原告 宮川英雄

被告 上木勝

主文

被告は原告に対し、金弐拾参万五千円及びこれに対する昭和三十二年十二月七日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り、原告において金五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告は原告に対し金二十四万円及びこれに対する昭和三十二年十二月七日以降右完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、原告は昭和三十一年六月二日被告より大型貨物自動車中古品一台(一九五三年式トヨダ号FX型、以下単に自動車と云う)を

(1)  売買代金五十五万円

(2)  手金十八万五千円、残金は同年六月末日より毎月末日金二万円宛分割支払する

との定めで買受けることゝし、即日右手金内金十万円、同月二十四日金四万五千円、同月三十日金四万円計金十八万五千円を夫々支払つた。

二、原告は右自動車を従来通り被告方に預つてもらつて薪炭商を営む被告の荷物を主として運搬し、毎月右運賃より前記分割支払金を差引き、同年六月より八月まで各月末に金二万円宛計金六万円を自動車代金として支払つた。

三、同年八月十三、四日頃、被告より右自動車は被告が訴外福井トヨダ自動車株式会社(以下単にトヨダと云う)から月賦で買受ける約束のもので、右会社に対して直接原告が買取り得るよう交渉する旨話があつて被告よりトヨダに右交渉がなされたがトヨダの方でこれを拒絶し、その際原告は被告よりトヨダに対する月賦金の滞納のある模様なることを知つて不安を感じ、同年九月末日以降の被告に対する分割支払及び右自動車の使用を何れも中止した。

四、被告は本件自動車をトヨダから代金六十万円で買受け、右代金支払方法として別の自動車一台を金十万円で下取りに渡し、且つ、金五万円を支払い、残金四十五万円を十五回の月賦で支払う、右代金支払済に至るまでは自動車の所有権はトヨダに留保するとの約束であつたところ、被告は右月賦金の支払を怠り内金十三万五千円しか支払わず、昭和三十一年十一月十五日、右自動車をトヨダより引上げられるに至つた。

五、そこで被告は原告に対し本件自動車を引渡すことができなくなつたので原告は民法第五百六十一条に則り被告に対し本件訴状送達を以て本件売買契約を解除する旨の意思表示をなした。よつて被告は原告に対し、先に原告より受領した本件自動車売買代金内金を原告に返還すべき義務があるので、原告は被告に対し内金二十四万円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和三十二年十二月七日以降右完済まで年五分の割合による損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べ、立証として甲第一乃至第五号証を提出し、証人五十嵐富士也、堀江秀一並びに原告本人の尋問を求め、乙号証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、原告主張の請求原因に対する答弁として、

(一)  原告主張事実中被告が原告に対し本件自動車を売買代金五十五万円で売渡し(但し売買契約成立の日は昭和三十一年四月末頃である。)、同年六月中原告よりその主張日時に金十八万五千円を(但し、内金四万円は同年六月中か或いは同年七月初頃に)受領し、その後原告に対し支払うべき運賃中より金五万円(但し内金二万円を同年七月十九日、内金二万円を同年九月十一日、残金一万円を同月十二日)を差引いて受領したこと、原告は右自動車を使用して薪炭商を営む被告の荷物を運搬して運賃を自己の所得としていたこと、被告が本件自動車をトヨダから代金六十万円で買受け右代金支払方法として別の自動車を金十万で下取りに渡し、且つ、金五万円を支払い、残金四十五万円を月賦で支払うことゝしたこと、本件自動車がトヨダによつて引揚げられるに至つたこと、は何れもこれを認めるがその余の点を否認する。

(二)  被告はトヨダとの間で本件自動車の残代金四十五万の支払につき昭和三十一年一月より同年三月まで各月末に金一万五千円宛、同年四月より同年八月まで各月末に金二万円宛、同年九月より同年十二月まで各月末に金二万五千円宛、昭和三十二年一月より同年三月まで各月末に金七万円宛を夫々分割支払うことゝ定め、右支払分に対しては右支払金額を額面とし、右支払日を支払期日とする被告振出の約束手形をトヨダに交付しておいた。

(三)  被告は右自動車を原告に売渡すに当り、原告に右自動車は被告がトヨダより月賦払の方法にて買受け掛込中のものであることを説明し、原告の被告に支払うべき金五十五万円は内金十四万五千円を契約後遅滞なく支払い、残金四十万五千円については被告がトヨダに交付した前記約束手形を原告において負担支払うことゝ約定した。

(四)  しかるに原告は右約束手形の支払期日が到来するも右約定に反して代払をなさなかつたので被告において前記のとおり原告に支払うべき支払運賃の内より右手形金相当額を差引いてトヨダに支払つたが、原告は昭和三十一年九月十五日限り被告の商品を運搬しなくなり、従つて右約束手形の支払のために保留すべき運賃所得がなくなり右約束手形が未払に終つた。

(五)  原告は前記のとおり本件自動車取引につき被告振出の約束手形を代払する旨の特約をなし、而も、原告やトヨダ係員より右約束手形の支払方催促及び不払に伴い、本件自動車を引揚げる旨の警告を受けながら依然月賦金の決済をしなかつたものである。

と述べ、立証として乙第一号証を提出し、証人井美文之助、佐々木豊、杉本豊、前田桂一、上木静子、並びに被告本人の尋問を求め、甲第五号証の成立は不知、爾余の甲号各証の成立を認めると述べた。

理由

被告がトヨダから本件自動車を代金六十万円で買受け、右代金支払方法として別の自動車を金十万円で下取りに渡し、且つ、金五万円を支払い、残金四十五万円を月賦で支払うことゝしていたこと、原告が被告より本件自動車を代金五十五万円にて買受け、昭和三十一年六月二日に金十万円、同月二十四日に金四万五千円、その外に金四万円(交付の日については同年六月末日か、七月初頃かについての争がある)を支払い、更に計金五万円の限度において代金(何れも交付の日時について争がある。)を支払つたこと、被告は薪炭商を営み、原告は右自動車を使用して被告の荷物を運搬しその運賃中より前記金五万円を差引いて被告に支払つたこと、本件自動車はトヨダによつて引揚げられるに至つたものであることは当事者間に争のないところである。

成立に争のない甲第一乃至第四号証、証人五十嵐富士也の証言によつて成立の認められる甲第五号証、証人五十嵐富士也、同井美文之助、同堀江秀一の各証言並びに原被告各本人尋問の結果(各本人尋問の結果中後記のとおり措信しない部分を除く)を綜合すれば、被告は昭和三十年十二月二十六日トヨダから前記のとおり本件自動車を買受け、トヨダとの間においてその残代金四十五万円の支払方法として昭和三十一年一月以降三月まで毎月末日各金一万五千円、同年四月以降七月まで及び同年十一、十二月毎月末日各金二万円、同年八月以降十月まで毎月末日各金二万五千円、昭和三十二年一月以降三月まで毎月末日各金七万円を夫々支払う、そのために被告は各支払期日を満期日とし当該支払額を額面とする約束手形をトヨダに振出し交付して支払をなす、右自動車の所有権は代金完済まではトヨダにおいて保留することゝ約定し、被告は右約旨に従い昭和三十一年三月まで右分割代金を支払つてきたが、被告としては本件自動車を所有し、別に運転手を雇傭の上右自動車を使用し、営業用荷物を運搬するよりも、むしろ右荷物の運搬のみを他に依頼し、これに対して運賃を支払うことの方が経済的に有利であると考え訴外井美文之助を介して本件自動車を他に売却しようとし、同年四月頃右井美は原告に対して右自動車売却の話をなし、その際同自動車は被告がトヨダから月賦で買入れたもので払込中のものであるが原告において同自動車を使用して被告の仕事をするなら一ケ月金五万円相当の仕事を原告に与える旨申向け結局同年六月二日頃、原告は被告より本件自動車を買受けることゝなり、同日代金五十五万円のうち、原告が既に支払つた金十九万五千円(当事者間に争のない金十万円と下取り金五万円と、さきに認定した昭和三十一年一月以降三月までの分割金各金一万五千円の三ケ月分)より金五万円を控除した金十四万五千円と既に支払期の来ていた同年四、五月分各金二万円の二月分との合計金十八万五千円を同年六月末日までに被告に支払うこと、残金は同年六月以降右完済まで毎月末日金二万円宛分割して支払う、右分割支払については原告が被告方の営業荷物を運搬して被告より受取るべき運賃より金二万円相当を控除してなすことと定め、原告はその後本件自動車を使用して専ら被告方営業用荷物の運搬に従事し、前記争のないとおり金十万円(六月二日)、金四万五千円(六月二十四日)金四万円(六月末日か遅くとも七月末日まで、内金二万円については被告より受取るべき運賃より控除)を、更に同年七月、八月各末日頃、各金二万円及び九月十五日頃までに金一万円を、何れも被告より受取るべき運賃より控除して以上合計金二十三万五千円の支払をなしたが、その間、被告とトヨダとの間における本件自動車の売買関係を直接原告とトヨダとの間の売買関係として原告において被告のトヨダに対する地位を引継ぐよう原、被告とトヨダとの間で交渉したが、その頃、被告のトヨダに対する前記分割代金が昭和三十一年四月分以降延滞し勝ちであつたところから、トヨダにおいて応ずるところとならず、原告においても被告の右延滞に不安を感じ、その後、同年九月十五日頃、原告は本件自動車を被告方においたまゝ被告方の運搬作業を中止し且つ、被告に対する約定分割金の支払をもしなくなり、一方トヨダは被告よりの分割金の支払をして同年四月分を六月十九日、五月分を七月二十三日、六月分を八月六日、七月分と八月分の内金一万円を九月十三日に夫々受領したが、その後の支払がなかつたので同年十一月十五日前記のように本件自動車を被告方より引揚げるに至つたことが認められる。原告本人尋問の結果中、原告は被告に対して支払つた前記金二十三万五千円の外に、昭和三十一年六月末日に金二万円を、被告より受取るべき運賃の中より控除して支払つた旨の供述部分があるが、右金二万円の支払については、別に前記認定のように六月末日か遅くとも七月初頃までに支払つた金四万円のうち金二万円を六月分の運賃から控除して支払われている事実と対比して、彼此混同の疑があり、且つ、前記認定のように、被告よりトヨダヘの支払状況と対比しても直ちに措信することができない。他に前記認定以上に原告が被告に対し本件自動車の売買代金を支払つた事実を認定し得る証拠は存しない。又、証人上木静子の証言及び被告本人尋問の結果中、被告が本件自動車の購入代金分割払の方法としてトヨダに対して振出交付していた約束手形を原告において代払する旨の特約をなしていたところ、原告は右約旨に反し右代払をなさず、且つ、トヨダの請求に対しても応じなかつた旨の供述部分があり、証人前田桂一の証言中にも原告がトヨダの支払請求に対して支払つたことがある旨の供述部分があるが、これらは何れも証人佐々木豊、同杉本豊、同五十嵐富士也、同堀江秀一の各証言並びに原告本人尋問の結果と対比するに容易に措信することのできないところである。そうだとすると、被告はトヨダより本件自動車を金六十万円にて購入し、昭和三十二年三月末日まで右代金を分割支払い、これが完済の上その所有権を取得するものであつたところ、被告は右分割支払の一部をなした後、原告に右自動車を金五十五万円にて売却し、原告は右代金につき分割支払を約しながら一部遅滞のまゝ経過し、一方被告はトヨダに対する支払を遅滞し、遂にトヨダより本件自動車を引揚げられるに至り、原告に対してはその所有権を移転することができなくなつたものと云うことができる。被告が代金完済までトヨダの所有に属する本件自動車につき自ら売主として原告との間に売買契約を結びながら遂にその権利を買主である原告に移転できなかつたものであるから原告において右売買契約を解除することができる(民法第五百六十一条)かどうかについて検討するに、売主が目的物を買主に移転し得ないことが買主の責に帰すべき事由に基く場合には、右規定の適用はないものと云うことができる、前記認定事実中に示したように原告において被告との約定に基く分割代金支払につき遅滞があつたものであるが、右遅滞はむしろ被告においてトヨダとの約定に基く分割代金支払につき遅滞があつて、原告に本件売買契約を存続することの不安を起こさせた結果、原告が被告に対し爾後の支払を中止するに至つたゝめに生じたものと考えられるのであつて被告が、トヨダに対して爾後の支払をすることなく、本件自動車が引揚げられるに至つた経緯に徴すれば、末だ原告の右規定に基く解除権を否定することはできないものと解するが相当である。

他に原告の右解除権を否定すべき事由を認めるに足る証拠は存しないところである。

原告が被告に対して本件訴状送達を以て右解除の意思表示をなし右訴状が昭和三十二年十二月六日、被告に送達されたことは本件記録に徴して明らかなところであるから、原、被告間における本件自動車の売買契約は右同日解除され、被告は原状回復義務として原告に対し、さきに売買代金の一部として受取つた金二十三万五千円を返還すべき義務あるものと云わなければならないから、原告の本訴請求中、金二十三万五千円とこれに対する契約解除の効力の発生した日の翌日である昭和三十二年十二月七日以降右完済まで年五分の割合による損害金の支払を求める限度においてその理由あるものとしてこれを認容するが、その余の請求はその理由が認められないからこれを棄却することゝし、民事訴訟法第八十九条第九十二条、第百九十六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 中村捷三)

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